普通科、3年の教室。そこでは国語の授業が行われていた。
先生の俳句に関する説明を聞いていた香穂子だが、ふと窓の外を見る。
見える光景は、もう花が散ってしまった桜の木と体育の授業をしているどこかのクラスだった。

その時、授業終了のチャイムが鳴り響く。
先生は教室を出て行き、他の生徒も徐々に教室から出ていく。
香穂子も教室を出る。すると、「よっ、香穂子。おつかれー」と言う声がした。
「あっ、菜美。おつかれ」と香穂子も返す。
声の主は同じ普通科の天羽菜美だった。
「今日は火原先輩くるの?」と菜美は香穂子に聞く。
「うん。来れそうだって言ってたよ」
「そっか、良かったね。あっ、私、部活あるから行くね」
「頑張ってね」
「香穂子も、練習頑張って!」と菜美は言って去っていった。

(さて、今日はどこで練習しようかな)
香穂子が考えていると、ケータイが振動した。
(和樹先輩からメールだ)
みてみると『今日オケ部の練習入っちゃって、行けなくなっちゃった・・・
ごめんね!また今度行くから!』と書かれていた。
(先輩、練習か・・・それじゃあしょうがないよね・・・)
香穂子はケータイを閉じて、歩き出した。

練習室が開いていることを確認した香穂子は、中に入り練習を始めた。
最近はこの間のようにコンクールやコンサートをやる予定がないので、時間に縛られるということはあまりなかった。
自分が弾きたい曲を好きな時に好きなだけ練習するといった感じの日々が続いている。
(あっ・・・昨日間違えたとこ、また間違えちゃった・・・なんか、あんまり調子よくないなぁ・・・)
香穂子は、自分でもはっきりとスランプに陥っていると感じている。
(前みたいに、いつまでにこれをやらなきゃいけない、っていうのがないからこんななのかな・・・)
一度練習を中断して、椅子に座る。
(・・・ダメダメ、こんなんじゃ。和樹先輩だって頑張ってるんだから)
香穂子と火原は、去年のクリスマスから付き合い始めた。
4月になって火原が星奏学院大学の1年となった今でもそれは変わらなかった。
大学の授業が終わった後、高等部の方に来てくれたり、休日も会える日は会っていたりしているが、それでも高校生の時より一緒にいれる時間は少なくなっていた。
(会えないのは、仕方のないこと。先輩は、私より忙しいんだから)
香穂子は火原に会いたいと思っても、いつもこうして自分に言い聞かせてそのことを火原には言わないでいた。
(こんな気持のまま練習しても意味ないよね・・・今日はもう帰ろうかな・・・)
と思いながら、香穂子は外を見る。
(よく晴れてるなぁ・・・せっかくだし、帰る前に屋上でも行って気分転換しようかな)
香穂子はヴァイオリンを片付け、練習室を出た。

音楽科の屋上に行ってみると、他の人の姿はなかった。
(ふー。風が気持ちいい)
香穂子はしばらくその場に立ったまま風を感じていた。
すると、だんだんヴァイオリンを弾きたい気分になり、香穂子はケースから取り出した。
(曲は・・・・・・先輩の得意なトランペット協奏曲)
香穂子はヴァイオリンを弾き始める。
曲を弾いていると、香穂子の頭の中には次々と火原のことが浮かんできた。
そして弾くことが楽しくなっていく。
(この感覚、ちょっと久しぶりかも)
そう感じながら、香穂子は曲を弾き終えた。
と、背後からいきなりパチパチという拍手の音が聞こえた。
誰かに聞かれていたことに気づいていなかった香穂子は、少し驚きながら誰かを確認するために振り返った。
「・・・・・・和樹先輩・・・?」と香穂子は、拍手をした人物をみて言う。
「また演奏上手くなったね、香穂ちゃん」と火原は香穂子に近づいていきながら言う。
「今日は、オケ部の練習があったんじゃ・・・」
「うん、最初は参加してたんだけど・・・どうしても抜けたいって言って、早く切り上げさせてもらったんだ」
「そうなんですか・・・ここに、なにか用事ですか?」
「・・・香穂ちゃんに会いたいと思って」
「えっ、私に会うために練習休んだんですか?・・・嬉しいですけど、ちゃんと練習でないとダメですよ」
「だって最近、なんか無理してるみたいだから。ちゃんと話聞きたくて。」
「!・・・・・・」
火原は香穂子が寂しく思っていることを、なんとなく感じとっていたのだ。
「俺には言えないこと?」
「・・・・・・」香穂子は自分の思いを言うかどうか迷い、黙り込む。
しかし火原は、香穂子が話し出すのをゆっくりと待っている。
そんな様子をみて、話す決心をして口を開いた。
「私・・・寂しいんです。学校に和樹先輩がいなくて」
「・・・・・・」
「放課後も時々来てくれるし、休みの日だって会ってくれてます。けど・・・それでも寂しいんです」
香穂子は、火原から目を逸らす。
「和樹先輩は何も悪くないんです。これは、私のわがままだから・・・」
言い終わると同時に、香穂子は俯いてしまう。
2人とも少しの間無言になるが、火原がその沈黙を破り「・・・香穂ちゃん、涙」と言った。
「えっ・・・」言われて初めて気づいた。
香穂子の瞳からは、涙が溢れてきていた。
慌てて自分の手で拭いていると、火原が香穂子を抱きしめた。
「!・・・和樹先輩・・・?」
「ごめん。君を泣かせて。俺、最低だ」
「先輩は本当に悪くないです。私がただ・・・」
「ううん、そんなことない。俺がもっと早く、ちゃんと話を聞いてあげてれば良かった」
「・・・・・・」
火原は香穂子から腕を解いて話始める。
「俺もね、寂しいよ。香穂ちゃんが学校にいなくて」
「先輩もですか?」
「うん。授業中とかでも構わず会いたくなっちゃって、先生の話とかまともに聞けてない時もあるくらい」
「それはダメですよ」と香穂子は言いながらも微笑む。
「だからね、会いたい時は1人で抱え込まないで、ちゃんと言って?俺も、ちゃんと言うから」火原は、香穂子をしっかりと見て言う。
「・・・会いたいって言っても、迷惑じゃないですか?」
「もちろん。香穂ちゃんだったらわがまま言われても、全然迷惑じゃないよ。むしろ嬉しいくらい」
「・・・・・・わかりました。これからはちゃんと言います」
香穂子はうなずく。
「うん、約束。あっ、指切りしようか?」
「指切りですか?いいですよ」と香穂子は言いながら笑う。
「「指切りーげんまん、うそついたら、針千本のーます。指切った」」と2人は歌いながら指切りをする。
「これで大丈夫だね」と火原は言って、太陽みたいに明るい笑顔になる。
「はい。・・・和樹先輩、ありがとうございました」と香穂子は言って、頭を下げる。
「俺は別に、なんにもしてないよ?」
「そんなことないです。私、先輩と話して元気でました」
「そう?それなら良かった。香穂ちゃんが笑顔だと、俺も元気もらえるしね」
「先輩・・・」香穂子は恥ずかしさで、頬がほんのりと赤くなる。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか?」
「はい」
2人は並んで歩き出した。



fin




私はどうやら最後が苦手みたいです。また苦労した(--)
オリジナル小説は、ここまで苦労しない時もあるんだけどなー・・・
もっと詳しいあとがきをブログに載せているので、そちらもよければみてください(^^)
2010.1.24